取材・文責:佐野木雄太

『PLAY JOURNEY!』と写真家・須田誠

2020年初夏、ILLUMINUSの人気シリーズ『PLAY JOURNEY!』がネット配信版として生まれ変わった。
「ゼロ距離&体感演劇」を標榜に掲げるこのシリーズが直面したコロナの危機は、クリエイターたちの創作意欲に新しい刺激を与え、シリーズの新境地を開くことに成功した。離れた場所でも演劇を体感し、どんな場所でもスマホ一つで作品世界を堪能できる。アナログとデジタルの理想的な融合は、これからの時代のエンターテイメントの可能性を広げたと言えるだろう。

刺激を受けたアーティストがもうひとり。――写真家・須田誠。

『PLAY JOURNEY!』について、須田氏抜きで語ることはできない。
今回配信版となった「アジア編」「キューバ編」の主人公“マコト”は、氏自身の過去の経験をモチーフにした物語である。
世界をめぐり、人々と出会い、関わり合って撮影をしてきた須田氏にとって、この未曽有のコロナ時代の到来はこれまでの撮影方法、氏のスタイルを否定してしまうような事態ではないのか。
ILLUMINUSは配信版『PLAY JOURNEY!』の製作とともに、須田氏にも作品創作を依頼することにした。
氏がこの時代をどうとらえ、どう乗り越え、どうやって作品をつくり上げるのか。『PLAY JOURNEY!』の生みの親の1人である須田氏の撮影現場に密着した。

PLAY JOURNEY!


世界中から人が集まる東京のホステルを舞台に、旅を通して生まれたストーリーやアート作品をモチーフにした演劇シリーズ。2019年秋、「"ゼロ距離”&"体感"演劇」をコンセプトにWISE OWL HOSTELS にてスタートしたILLUMINUSの人気シリーズ。

夏目漱石(キンノスケ)と正岡子規(ノボル)の交流を描いた”京都”編。
キューバでの不思議な出会いと数奇な運命を描いた”キューバ”篇。
アジア数カ国を旅する中で出会った様々な人物たちとのエピソードを描いた”アジア”篇。

アジア編、キューバ編は、写真家・アーティストの須田誠氏のフォトエッセイを原案にしたストーリー。2020年コロナ渦で上演困難となり、デジタルライブ作品として演出を全て一新して生まれ変わる。
●Geki-Dra『PLAY JOURNEY!』In The Round公式HP
https://www.play-journey.online/

Photo by Kakeru Tanaka

須田誠 Makoto Suda


東京出身。28歳で10年間勤めた会社を辞めNYに二年間滞在。34歳の時、世界放浪の旅に二年間出る。放浪中に初めて一眼レフと出会い、旅をしながら独学で勉強。帰国後写真展を繰り返し、2007年『NO TRAVEL, NO LIFE』でデビュー。
著書『NO TRAVEL, NO LIFE』は、多くの若者より支持を受け、写真集としては異例の第5刷・25,000部を突破。 ニューヨークにあるNY近代美術館 MOMAでも発売される。
2017年発売の最新写真集『GIFT from Cuba』絶賛発売中。
「まるで一本の映画を観たようなそんな気持ちになった。 by オダギリジョー」

EXILE、Omara Portuondo(映画ブエノビスタ・ソーシャルクラブ)、高橋歩、等、多くのアーティストとコラボ。フランス雑貨<プチコキャン>とのコラボ作品はフランス本社でも好評を博す。BEAMS Tから写真を使用した須田誠オリジナルTシャツ発売。
東京都写真美術館内のカフェにて写真展を開催。ポスト藤原新也として雑誌『PhotoGRAPICA』に紹介される。EXILE・USA、ファッション誌DUNE編集長・林文浩氏、旅学編集長・池田伸氏らから高い評価を受ける。世界中で人物撮影を中心に様々なアート分野で活躍。
現在、毎月開催されている『須田誠 写真教室』は、2020年で100期生を越えのべ2500名以上を輩出する。
●須田誠公式HP
https://travelfreak.jp/

「須田誠、スダマコトを撮る」

田中翔と鵜飼主水。今回ILLUMINUSの提案は「“マコト”を演じた2人の俳優を、須田誠本人が撮影する」というもの。本人よりも実年齢に近い、等身大の“マコト”像に迫った彼らを、モチーフとなった須田氏本人が撮影する。この試みに快く応じてくれた須田氏から、撮影方法についての注意書きが届く。

「時代的に人に近づいて撮るという手法を封印せざるを得ないので、距離をとってこの時代ならではの撮影をしましょう。集合から解散まで一切会話は無し。すべて身振り手振りで。目と雰囲気でお互いを信頼し、想像力を持って、バイブレーションを合わせていきましょう。徹底することで何かが生まれてくると思います。ちょっと大変ですがチャレンジしてみましょう!」

面白い。
いや、それ以上に須田氏の時代への挑戦ともとれる試みに敬意を抱く。ILLUMINUSが新しい演劇の形を模索するように、須田氏もまた、写真家として新しいスタイルを模索している。クリエイターとして、アーティストとしての先人たる須田氏の大きな挑戦は、我々の背中すら大きく押してくれたように感じた。

Photo by Makoto Suda

田中翔


舞台を中心に俳優、ダンサーやクリエイターとして活動。主な出演作品として#02 『 世界を教えてくれた君 』、国府台ダブルス『卒業式、実行』、『 ANSWER 』などがある。 「PLAY-JOURNEY! 」シリーズでは昨年秋に上演されたアジア編、キューバ編に出演。配信版であるの今作『PLAY JOURNEY!』In The Roundでは、キューバ編でマコト役で出演する。

鵜飼主水


舞台俳優。メインを舞台とし、役者の他にも殺陣振付、演出、MC業もこなす。また舞台以外にも俳優カメラユニット「gekichap」にて個展等も合同で開いている。主な出演歴に、「舞台 真・三國無双~赤壁の戦いIF~」「舞台 信長の野望シリーズ」「博多豚骨ラーメンズ」。 配信版であるの今作『PLAY JOURNEY!』In The Roundでは、アジア編にマコト役で出演する。

旅の始まりは、空港から

撮影当日。閑散とした国際線ターミナルに須田氏が現れた。ソーシャルディスタンス2mの距離で無言の会釈をする。すでに新しい試みは始まっている。モデルとのアイコンタクト、距離を取っての構内の移動、どれも思った以上に難しい。普段の温厚な須田氏とは違った緊迫感を感じて、我々は気後れしないよう努める。
既に2度にわたって“マコト”を演じ、何度も互いに顔を合わせている田中翔と氏のやり取りはスムーズに行われているように感じた。身振りと目線で立ち位置を決め、ジェスチャーと発想力でポージングを、お互いの意志の上で合わせていく。すでにお互いを知って、わかっているからこそできる、無言のコミュニケーション。いつしか緊迫感は心地よいものになっていった。
この配信版で初めて“マコト”を演じ、画面越しの顔合わせでしか面識が無い鵜飼主水と氏のやり取りは、はじめ少しぎこちなく感じた。身振りの大きさと実際の距離の思い違い、視線とアイコンタクトのタイミングのズレ、初めて出会う人との心理的な距離感、どれをとっても簡単なことではない。ただ、それも最初の数ショットを撮っていた時だけ。ちょっとした思い違いを繰り返すうちに、やがてお互いに距離感が合っていく、ジェスチャーの意味が伝わり、また相手が理解したことが自分にもわかりはじめる。そうして意志が通い始めると2人の心理的距離感も一気に近づいていく。シャッター音だけが響くターミナルの中で、傍から見ていても2人の距離が縮まっていくのを感じた。

Photo by Makoto Suda

撮る人も、撮られる人。

モデルである田中と鵜飼は、実は両名ともカメラを趣味としている。当日は須田氏より直々にマイカメラを持参するよう指示をされ、撮影中もカメラを構えるポーズを多く撮ったように思う。傍から見ていて面白いのは、田中も鵜飼もまた、須田氏を撮影するのだ。カメラを構える須田氏を撮影し、またそんな自分を須田氏が撮影する。どちらがカメラマンで、どちらがモデルか、一見にはわからないかもしれない。だが、繰り返されるシャッター音が無言の会話を織りなし、ファインダーから外した目線がふと交じる、周囲が気付かないそんなささやかな交感は、互いの心の距離をぐっと近づけていく。

須田氏が模索した新しいスタイル

思えば、関係を築くとはそういうことではなかったか。声を発する、相手に触れる、それは確かに大切なことではあるが、それだけで関係を築くこともまた難しい。相手を知り、理解して、お互いのことを分かり合うことで初めて築かれる関係性。そこに必要なのは声や接触といった表面的なことではなく、本来の意味での『会話』や『ふれあい』なのではないか。すでに知り合っている人の新たな一面を発見する楽しみも、ぎこちないところから徐々に打ち解け通じ合う嬉しさも、無言のコミュニケーションの中でさえ生み出すことができる。
須田氏の新しい挑戦は、それを証明していたように思う。

Photo by Kakeru Tanaka

笑顔がお疲れ、さようならの挨拶

撮影が終了し、解散となって須田氏が笑顔で去っていくの見送る。今回の試みの手ごたえをぜひその場で聞きたかったが、そこはグッと我慢をして、コンセプトに合わせて感じ取ることを考える。きっと仕上がった写真からその答えを知ることができるはずだ。

Photo by Makoto Suda
企画・構成・WEBページ制作:小宮山薫 写真:須田誠 田中翔 取材・文責:佐野木雄太 協力:株式会社タムロン

 

「須田誠、スダマコトを撮る」



【内容】
「PLAY JOURNEY!」アジア編、キューバ編の原作者、須田誠によるフォトタブロイド作品。モデルは自身をモチーフにした“マコト”役を演じる鵜飼主水と田中翔。「最短撮影距離25センチ」という自身の撮影スタイルを封印した須田誠の、コロナ時代の新たな撮影スタイルで挑む意欲作。

【キャスト】
鵜飼主水 田中翔

【撮影】
須田誠

【 販売商品】
 「須田誠、スダマコトを撮る」

【価格】
2500円 

【 販売スケジュール】
2021年1月予定

【 協力】
株式会社タムロン 
【企画・製作】 ILLUMINUS

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